時代劇の風景 ロケ地探訪 坂本

 叡山の麓にある坂本は、ゆかしい町並みを残す比叡山延暦寺の門前町。清冽な水の迸る水路がめぐり、東西に開けた道からは湖の青が望まれ、穴太衆積みの石垣が連なる美しい町である。
坂本の町並みは伝統的建造物保存地区に指定されているが、風景の特徴の一つは里坊群による。これは叡山僧の隠居所で、落ち着いた風情ある建物が多い。

穴太衆積みの石垣 日吉大社参道から湖を望む 水路

■ 慈眼堂

 滋賀院門跡の裏手にひっそりと鎮まる慈眼堂。慈眼は南光坊・天海僧正に諡られた称号で、お堂は僧正の廟所である。
天海は家康・秀忠・家光の三代にブレーンとして仕えた人物で、信長の攻撃で一宇も残さず焼き尽くされた叡山の再興に尽くした。東の叡山・寛永寺の開祖でもある。
竹千代ぎみを後継とするよう神君に助言した経緯があり、このお堂は家光の建立になる。

廟所

 御廟は方形のお堂で、てっぺんに宝珠が乗る。堂前にはまっすぐ石畳が伸びていて、両脇に大きな笠が特徴の灯籠が並び、足もとには厚く苔が敷き詰められている。
お堂と灯籠の形のユニークさが、よそでは得られない効果を画面にもたらす。
ここは暴れん坊将軍でよく使われたところ。堂前でのラス立ちのほか、堂脇にある石塔群が墓地として使われる。

灯籠 廟所前面 山門から堂を望む

 灯籠の形と配置がユニークなので、ここが使われるときに映らない例は少ない。
暴れん坊将軍 II 「わらべ地蔵の子守唄」では、汐路章演じる地回りが立てこもる寺子屋。このときはお堂自身も使われている。同じく II の「疑惑を呼んだ小さな命!」では、「上様の子」を身籠った大奥の中揩フ恋人が隠れるお堂。「吉宗婚約、五郎左は家出!?」では、珍しく上様と相愛になる娘が、加納じいとともに監禁されてしまう飛鳥山の荒れ寺。いずれも殺陣はお堂前で行われ、灯籠群の間を行き交っての立ち回りとなる。
闇の仕事師たちとお庭番が死闘を繰り広げたこともある。ツナギのシーンなどには、灯籠の開口部が効果的に使用される。
第三シリーズの「危うし!妖刀に正義ありや」では、山田朝右衛門が刃引きの刀で灯籠を両断する場面もある。

堂と石塔 石塔群 阿弥陀仏

 お堂脇にある石塔群には、天海僧正や東照大権現の供養塔のほか、歴代天台座主の奥津城もある。大きなストゥーパもある。
墓所の一段上には、十三体の阿弥陀仏が鎮座する。これは六角承禎が母の故郷に奉じた48体のみほとけの一部が鵜川からここへ移されたもので、十三石仏の名で親しまれる。
 ここは墓地として使われる。暴将 II 「夢かるた、師走の謎唄!」が好例で、材木商の実家を勘当になった女が両親の墓参に来て、実家を仕切っている妹夫婦の悪口を新さんにぶちぶちと述べ立てるのがここ。その両親を殺した旗本の若様もやってくる。

■ 滋賀院門跡

 ここは「里坊」のなかでも最大規模の施設である、天台座主の住まい。
北白川にあった法勝寺を移したもので、滋賀院の名は後水尾上皇から賜った。広壮な構えの塀は、穴太衆積みの代表例とされる。

外構え 勅使門

 第一シリーズの吉宗評判記 暴れん坊将軍「嵐の中に舞う女」では、大奥のお局さま・月光院が参詣する東叡山・寛永寺として使われた。
お局さまの駕籠は、勅使門前につけられる。このくだりでは、お局さまと大岡忠相が慈眼堂の灯籠脇で話す光景も撮られている。

滋賀県大津市坂本

坂本 ロケ使用例一覧
*坂本で最もロケ使用の多い日吉大社は別項目


・ロケ地探訪目次 ・ロケ地探訪テキスト目次 ・ロケ地資料 ・時代劇拝見日記
・時代劇の風景トップ ・サイトトップ